伝統技術を受け継ぐ各地の職人とともに時代に合った新たな価値を生み出し、伝統工芸の未来を切り拓くプロダクトデザイナー戸田祐希利さん。「伝統工芸は土地の物語を伝えるメディア」と話す、戸田さんのものづくりとは―――。
「暮らすひと暮らすところ」が生まれるまで
図工が好きな小学生で卒業アルバムの将来の夢には「プラモデルのデザイナーになりたい」と書いた。大学では、富山県の高岡短期大学産業造形科(現・富山大学芸術文化学部)に進み、「暮らしのなかで使うものを作りたい」と家具作りを学んだ。
戸田祐希利さんにとってひとつの転機となったのが、交換留学生として訪れたフィンランド・ラハティでの経験だった。
「アアルトやカイ・フランクなどが好きで留学を決めたのですが、行ってみるととてものどかな田舎でした。ただ、フィンランドに行って、驚いたことがあります。それは、カイ・フランクの食器が現地のスーパーで普通に売っていること。半世紀ほど前にデザインされた食器が、『ちょっといい器』としてきちんと認識されているし、世界中で使われているその器に現地の人が誇りを持っていたりもする。『こういうものづくりっていいな』と感じる出来事でした」
帰国後、大学を卒業した戸田さんは、小さな家具工房で職人としてキャリアをスタート。その後、量産家具メーカーに移り、営業や商品開発を担当する。そして、2011年に独立することを決意。
名付けた屋号は「暮らすひと暮らすところ」だった。そのルーツは、陶芸家・河井寛次郎が残した「暮らしが仕事。仕事が暮らし」という言葉にある。
「家具職人時代に河井寛次郎記念館でこの言葉と出合い、とても感銘を受けました。暮らしのなかにインプットがあり、そこからアウトプットが生まれる―――。そんなサイクルこそが、理想のデザインの在り方であり、暮らし方だと感じたのです。その経験もあって、独立後の理念を考えているときに『暮らすひと、暮らすところにそっと馴染むものづくり』という言葉が浮かびました。その思いを屋号にしています」
土地の物語を伝えるメディアとして
2011年に独立を果たした戸田さんは、学生時代から縁のある高岡の町でものづくりを始める。高岡銅器の鋳造の技術を使ったプロダクトを模索する日々のなかで出合ったのが、銅器の着色を専門とする職人の折井宏司さんだった。
「折井さんがつくる色の美しさはもちろん、銅や真鍮が持つ腐食性を利用して発色させる伝統的な着色技法そのものがおもしろくて……。その技術は、着色というよりも染色のようにも思えたし、自然な化学反応で色を付けていくプロセスに興味を惹かれました。高岡で学生時代を過ごした僕ですら知らなかったすばらしい技術がある。そのことに感動したし、この”発見”を多くの人に伝えたいとも感じました」
そんな出合いから生まれたのが、自然石を切り出したような真鍮製のブローチ「One to one Brooch」だった。
「主役はあくまでも折井さん自身がデザインした”色”。そのため、あえて作為的なデザインはせず、自然石の形をそのままトレースすることにしました。ブローチにしたのは、折井さんの”色”を知らない方にも手にとってほしいから。当時の折井さんにはすでに一定のファンがいて、モダンなギャラリーやインテリアショップには作品が置かれていました。もうすこし気軽に身につけられるクラフト商品にすることで、異なる趣向をもつ方にも認知してほしかったのです」
「One to one Brooch」は、その後「tone」シリーズに発展し、現在も折井さん率いる「モメンタムファクトリーorii」社の人気ラインとなっている。一方で戸田さんは、この仕事をきっかけにさまざまな産地のつくり手と二人三脚のものづくりをするようになる。
そんな戸田さんにとって、伝統工芸の魅力とはなにか。
「私は、工芸はその地域の物語が詰まったメディアだと思っています。たとえば、折井さんは着色に富山の田んぼで取れた稲穂を使いますし、美濃焼の土は美濃で取れます。工芸品を紐解いていくと、必ずその土地の自然や文化とのつながりが必ず見えてくる。だからおもしろいし、価値があるのだと思います」
つくる人とつかう人の幸せな関係
ときにプロダクトデザイナーであり、ときにクリエイティブディレクターであり、ときに地域の営業マンでもある。数多くのプロジェクトを手掛ける戸田さんの仕事は、実に幅が広い。独自の視点で伝統工芸の未来を見つめる戸田さんは、各地で受け継がれる伝統技術に寄り添いながらも「つくり手の方だけを向きすぎない」ことを意識しているという。
「デザイナーの仕事は、デザインを通じて社会の課題を解決すること。その手段としてものづくりがあるのだと思います。だから、つかう人=生活者のことを考えることが、私にとっては大切です。その意味で、つくり手=職人の方ばかり向いてしまうと、『誰が使うのか』ということが見えにくくなってしまうことがあるんです」
さらに戸田さんは、こう続ける。
「私がつくり手の方とともに仕事をする時間は、長い職人人生の中のほんの1~2年かもしれない。だからこそ、自分が関わっているうちに、つくり手とつかい手の関係性を作りたいんです。そのつながりさえあれば、つくり手には、これからの時代や社会が求めるものが見えると思うんです。その結果、事業が長く続いたり、伝統産業に新たな価値が生まれたり、技術が継承される土壌ができたりして、地域に誇りが生まれるかもしれない。それは、つくり手にとっても、つかい手にとっても、産地にとってもしあわせなことだと思います」
そんな戸田さんが最近手がけた仕事のひとつが、MUSUBI KILN オリジナルのラーメン鉢だ。2026年1月に発売された第一弾に続く第二弾で、戸田さんは染付のラーメン鉢の絵付けのデザインを担当している。
「世に数多のラーメン鉢があるなかで、世界中の人々が『使いたい』と思える意匠とはなにか。その点を意識した結果、日本を感じさせる伝統的な意匠を取り入れることにしました。ただ、伝統的な染付らしさを追求するのではなく、藍染など幅広い工芸からインスピレーションを求めました。」
日本らしさを求める海外の顧客に対し、どうやって伝統を伝え、魅力的にみせるか。試行錯誤を繰り返しながら、理想のラーメン鉢を作り上げていく。このMUSUBI KILNとの協働について、最後に戸田さんはこう語ってくれた。
「MUSUBI KILNは、日本の工芸品の価値の高さを正しく認識し、世界に伝える存在だと思っています。その営みは、日本の伝統工芸の未来にとって必要だし、私の仕事と共鳴する部分も多い。だから、今回関わることができてとてもうれしいですね」
戸田 祐希利(とだ ゆきとし)
クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー
1977年愛知県生まれ。富山県で家具デザインを学んだ後、2002年に家具工房に職人として在籍。2005年小泉産業入社、営業部を経て、商品開発部にて家具の企画・開発に携わる。2011年11月「暮らすひと暮らすところ」を設立。 オフィシャルサイト https://kurasu-kurasu.com/