日本の産地から世界の食卓へ。
海を越えて届く伝統工芸は、受け取る人にとって、単なる配送物ではありません。それは、日本の文化の息遣いであり、自分や大切な人への贈り物であり、日々の暮らしを豊かにする存在です。
MUSUBI KILNがオリジナルラーメン鉢の開発とともに挑んだ、もうひとつの大きなプロジェクト。それは、日本の美意識を包み込み、最高の”体験”を届けるためのパッケージづくりの物語でした。
オリジナルパッケージという必然
日本の器には、世界に誇るべき美しさがあります。けれど、その器がお客様のもとに届くとき、“贈り物”としての美しさは損なわれていないでしょうか? MUSUBI KILNのアートディレクター梅原の心には、常にひとつの課題がありました。それは梱包という現実的な壁です。
「これまでは、とにかく器の破損を防ぐことが最優先でした。その結果、どうなっていたかというと、いわゆる『プチプチ』の二重巻き。段ボールの中に、気泡緩衝材でぐるぐる巻きにされた器が入っているんです。たしかに安全ではありますが、『贈り物として美しいか』と問われると、疑問が残ることもありました」
もちろん、器を厳重に巻くほど、荷物の体積は増えていきます。海外配送において、空気まで運ぶような大きな梱包は、送料の増大に直結してしまいます。
「売れば売るほど送料がかかる。けれど、梱包を簡素にすれば破損率が上がり、お客様をがっかりさせてしまいかねない。その意味でも、配送は私たちにとって長年の課題だったのです」
今回のオリジナルラーメン鉢プロジェクトは、そんな課題と向き合う機会でもありました。
「破損率を最小限に抑えることはもちろん、せっかく自分たちが理想とするラーメン鉢を一から作るのですから、それが届く姿まできちんとデザインしたい。そんな想いが、オリジナルパッケージを開発しようと考えたきっかけです」
開封の瞬間をデザインする
海外のSNSには、「Unboxing(アンボクシング=開封動画)」というコンテンツがあります。それは、箱を開け、包みを解き、中身を取り出すプロセスそのものを楽しむ文化です。梅原は、この体験こそが重要だと考えていました。
「わざわざ日本から取り寄せるものだからこそ、届くまでの時間も、届いてからの瞬間もワクワクしてほしい。パッケージを開ける瞬間に喜びを感じられるようなパッケージを設計したかったのです」
目指したのは、単なる保護箱ではありません。日本の美意識を感じさせ、かつ環境にも配慮された、現代のギフトボックスです。
まずこだわったのは「プラスチックフリー」であること。従来のプラスチック製緩衝材を極力排除し、すべてを紙で構成することに挑みました。
重く割れやすいラーメン鉢を、紙だけでどう固定すればいいのか―――。試行錯誤の末にたどり着いたのは、意外なほどシンプルな構造でした。
「最終的に採用したのは、鉢を紙の台座に固定し、十字に交わる厚紙で留めるという方法でした。これは代表の房田のアイデアですが、この構造によって、箱の中における器の動きを最小限にすることができたのです」
プロジェクトメンバーは、幾度となく落下テストを繰り返し、破損しないことを確認しました。シンプルでいて、計算し尽くされた構造。そこには、過剰な包装を削ぎ落とし、機能美を追求する引き算の美しさがあります。
器を包む日本の美意識
機能性の次に求めたのは、情緒です。完成したパッケージは、シンプルでモダンなデザインに仕上がっています。
「MUSUBI KILNらしさを感じていただけるよう、あえて過剰な装飾は避けました。厚紙の箱を包み込むようなスリーブはグレートーンで統一し、シンプルな箔押しのロゴをあしらうことで、紙の質感そのものを生かしています。目新しさや派手さはないけれど、決して古臭くはない。現代のライフスタイルに馴染むような品の良さを大切にしました」
こうして生まれたギフトボックスは、MUSUBI KILNオリジナルの風呂敷に包まれてお客様のもとに届きます。風呂敷の結び目を解くと、美しい箔押しの箱が現れ、その蓋をそっと開けると、ようやくラーメン鉢と対面できる―――。この一連の流れが、ひとつの物語になっているのです。
さらに、箱を開けた蓋の裏側には、ちょっとした仕掛けも。QRコードを読み込むと、家庭で作りやすいラーメンのレシピ動画が見られるようになっているのです。
「この器とともに、どんな時間が過ごせるのか。その提案までを含めてパッケージにすることを意識しました」と梅原は振り返ります。
ものづくりの「最後の一歩」を繋ぐ
日本の産地には、素晴らしい技術を持った窯元や職人がたくさんいます。しかし、梅原はさまざまな産地を巡る中で、ある種のもどかしさも感じていました。
「職人さんたちは、器を作ることに関しては超一流です。一方で、それをどう届けるかという点にまでこだわり抜く余裕がないことも多いのです。段ボールに無造作に入れられた美しい器を見るたびに『もったいないな』とも感じていました」
中身は一流でも、届け方次第でその価値は伝わりにくくなってしまう。特にギフト需要の高い海外市場において、パッケージの良し悪しはブランドの信頼に直結します。だからこそ、そのギャップを埋めることが、MUSUBI KILNの使命でもあるのです。
「作り手には、ものづくりに集中してほしい。その分、私たちが『届けること』のプロとして、最高の舞台を用意する。今回のパッケージ開発は、産地の技術と世界のお客様をつなぐ、私たちなりの決意の表れだと感じています」
海を越えて、世界に届く日本の器。それは単なる”プロダクト”ではなく、日本の美意識が詰まった”贈り物”です。MUSUBI KILNオリジナルのラーメン鉢とパッケージが生み出す喜びに満ちた時間が、一人でも多くの方に届くことを私たちは願っています。