冒頭の特集で取り上げた山浦早織さんの作品は MUSUBI Gallery(ギャラリー)にて公開しています。ここでは、クリエイティブグループがつくり手や作品の魅力を引き出すために行っている工夫について紹介します。
「MUSUBI Gallery」とは?
私たちが運営するEC(インターネット通信販売)サイト MUSUBI KILN には、通常の商品紹介に加えて、MUSUBI Gallery というコレクションがあります。
Gallery はつくり手の作家性や精神性を重視しており、つくり手から受け取ったものづくりへの情熱を、「撮影」という行為を通じて次のステージへ引き継ぐことを大切にしています。そのため、写真やデザインは単なる表現ではなく、つくり手とつかい手をつなぐ架け橋となるものです。
その架け橋をしなやかに、そして誠実にかけ続けることを使命として、Gallery のクリエイティブは生み出されていきます。
クリエイティブを生み出す流れ
Gallery のクリエイティブにおいて、最も大切な要素は作品の写真です。私たちが写真撮影の際にとても大切にしている世界観には、次の三つの軸があります。
ひとつ目は「品格」。Gallery にふさわしい品格を持ち、清潔感と凛とした空気を通して作品の力強さを表現するにはどうすればいいか。
ふたつ目は「個性」。作家性をダイナミックに表現するような、作品から放たれる個性をより際立たせるにはどうしたらいいか。
みっつ目は「臨場感」。作品と共に歩む未来を想起させ、その場にいるかのような臨場感を伝えるにはどうしたらいいか。
この三つを合言葉に、撮影の際はアートディレクターとフォトグラファーが二人三脚で表現を探っていきます。アートディレクターは「お客様に作品の魅力が伝わりやすいか」という視点を重視し、フォトグラファーは独自の表現や創造性を活かしながら撮影に臨みます。それぞれの視点を組み合わせることで、作品の魅力、見やすさ、そして特別感がバランスのとれた表現を目指しています。
Gallery の撮影には「正解」はありません。求める基準や世界観はあっても、常に手探りです。議論を重ねながら、最適なクリエイティブを導き出していきます。
Gallery 撮影の裏側 ─ 山浦早織さんの「さざめく」を撮影、ただ、撮り直しに……!
今回 Gallery で撮影した作品は、冒頭の特集で紹介した山浦早織さんの九谷焼抹茶碗「さざめく」です。
つくり手や作品の世界観を伝え、最適な表現を探る Gallery の撮影では、撮り直しになることも珍しいことではありません。今回も、より良い表現を突き詰めるために再撮影となりました。
当初、他のフォトグラファーが撮影した写真がこちらです。アートディレクターの荒木は事前にフォトグラファーの鈴木が撮影した酒器の写真2点との統一感を意識し、メインショットと3点の写真を並べた際に、スケールや空間的な広がりを生み出し、ダイナミックな印象を表現することを狙いました。
ただ、この写真は再撮影になりました。Gallery の写真は「作品が主役」であるべきですが、この写真は背景との組み合わせによって生まれる迫力がメインとなり、作品そのものに目が届きづらい構図になっています。また、器の質感や特徴がぼやけてしまい、作品の魅力が十分に伝わりにくいという懸念がありました。その声を受け、荒木は次のように振り返ります。
「私自身も撮影現場でその印象は感じていた一方で、若いフォトグラファーの感性や新しい表現手法に強い可能性を見出していたため、最終的にはその挑戦を肯定しました。しかし、NGの判断を受けたことで改めて作家の想いやインタビュー記事に立ち返り、作品そのものの魅力がストレートに伝わり、見る人が素直に『素敵だな、欲しいな』と感じられる写真表現とは何かを再考するきっかけになりました」(荒木)
取材での会話をヒントに、撮影における最適な表現を考え抜く
再撮影を担当することになったフォトグラファーの鈴木とアートディレクターの荒木は、議論を重ねながら再撮影の方向性を模索していきました。
「撮り直しになった要因である『作品よりも背景の演出に重点が置かれていること』を解消するため、写真のビジュアルを必要以上に手を加えるのではなく、よりシンプルに仕上げ、作品の持つ良さをしっかりと伝える方向性が良いのではないかと考えました。その上で、作品自体の魅力を損なわずに、いかに人の目にとまりやすくしつつ、さらに Gallery としての特別感を演出できるかについて、荒木と議論を重ねました」(鈴木)
撮影を行うにあたり、鈴木は表現についてさらなる模索を続けました。そのときに頭に思い浮かべたのは、山浦さんを取材した際の会話や、そこで交わされた言葉の数々でした。
山浦さんは、自然の現象をとても感覚的に受け止めている方だと感じて、作品に向き合うときの静けさと、その奥にある小さな衝動のようなものが同時に伝わってきました。その静けさと『さざめく』の深い蒼の色彩から、洞窟の暗がりに差し込む光が水面に当たり、さざ波をほのかに照らしているようなイメージを連想しました。また、作品から感じた衝動は、洞窟の中で岩にぶつかって広がる白波の動きとも重なって見えました」(鈴木)
取材で得たリアルな感覚を手がかりにして写真の表現へと落とし込んでいくなかで、鈴木は「水面の波を使って静けさのなかに潜む力強さのある動き」を表現することによって、山浦さんの世界観を形にすることをイメージしたといいます。
その世界観をつくるため、撮影の台に水を張り、水面をつくり、息を吹きかけることで波を表現します。「水面に映し出される波の表情にもこだわりました。作品に最も合う波を表現できるよう、何度も試行を重ねて作り込み、作品の雰囲気と調和するよう工夫しました」(鈴木)
水面の波とは別に、もう一つこだわったポイントがあります。それは「さざめく」の大きな特徴でもある「釉垂れ」をしっかり見せることです。
「ここは釉薬の色の美しさが最も豊かに現れる部分です。また、山浦さんから伺った『垂れの偶然性を残している』という考えに通じる、自然の働きがそのまま刻まれた箇所でもあり、作品が持つ自然の要素を端的に伝える要として欠かせない部分だと考えました」(鈴木)
釉垂れ部分の凹凸を強調することで、立体的な釉垂れの形に視線が集まるようにしたいと考えた鈴木は、ライティングの調整を繰り返しました。光を強く直射しすぎるとハイライトや凹凸感、さらには色味までも損なわれてしまうことがあるため、繊細な作業を繰り返すことが求められます。
「山浦さんの作品はみずみずしさを備えているため、凹凸や釉薬のツヤといった一つひとつの要素を丁寧に引き出すことで、それが写真にも表れるところが魅力だと感じます。ライティングでは作品のどの要素を際立たせたいのかを意識し、見せたい部分をある程度絞って表現することを心がけました。また、配置においても空間に余白を残すことで、作品が持つ静けさや余韻を感じられるようにしています」(鈴木)
撮影中に抱いた葛藤も、アートディレクターとの二人三脚で解決する
撮影が進むなかで、鈴木には頭を抱える瞬間も幾度か訪れました。それは「暗さをなくして多くの要素を同時に見せたい」「波の要素をなくしてシンプルにした方がよいのでは」という意見も出ていたからです。
「たしかに山浦さんの作品は、それ単体でシンプルに撮影しても十分に絵になるとは思います。ただ、私自身としては暗い洞穴の波のイメージこそが作品の世界観を支える要素だと感じており、撮影を進めていきながらそこはやはり残すべきだと確信しました。そのため、暗さの雰囲気を保ちながらも作品の特徴をしっかりと伝える必要があり、ライティングの組み方や調整には大変苦心しました」(鈴木)
完成度を高めていくために、常にアートディレクターと意見を交わしながら作業を進めます。葛藤や悩みをフォトグラファー一人が抱え込むのではなく、二人三脚で最適な表現をつくり出していくことが Gallery の撮影では不可欠だからです。
「荒木とは作品の持つ重厚感を強調するか、それとも透明感やみずみずしさを前面に出すか、といった方向性については何度も議論になりました。私は釉薬の流れや質感を丁寧に見せたいと考えていましたが、荒木からは『全体の構図として余白をどう残すか』といった視点で意見をもらいました。そのやり取りを重ねるなかで、ただ作品を『記録する』写真ではなく、作品の持つ世界観を体験させるような写真に仕上げる方向へと変化していったと思います」(鈴木)
議論を繰り返し、撮影の表現を整えながら、最終的にフォトグラファーがこだわる釉垂れや質感の見せ方と、アートディレクターの求める全体の調和が共存する形を探り続けました。
再撮影が無事に終了 ─ 今後もさらなる表現の挑戦へ
試行錯誤を繰り返し、長い時間をかけて再撮影は終了しました。
完成した写真がこちらです。再撮影の要因になった「背景の情報が多く、作品そのものに目がいかない構図」という点は、背景をシンプルな波で表現することで作品のモチーフや世界観を表現し、釉垂れも目に留まり、作品の個性を消していません。また、「器の質感や特徴がぼやけ、魅力が伝わりづらい表現」に関しては、作品のもつみずみずしさを際立たせるライティングにより色や質感が明確に伝わってきます。
Gallery 撮影の写真のポイントである「品格・個性・臨場感」の三つが表現されていることも、今回の仕上がりの大きな特徴です。
「品格については、作品の持つ静けさを感じてもらえるよう、あえて暗さを残すことで落ち着きや深みを表現しました。個性については、特徴的な『洞穴』モチーフを単なる背景ではなく一つの風景として捉え、その独自性を際立たせています。そして臨場感については、その風景に差し込む光を再現することで、作品に奥行きをもたせ、より立体的に伝わるよう工夫しました」(鈴木)
さらに、再撮影ではメインショットに加え、抹茶碗を手にしたカットも撮影しています。使用イメージがわくことを狙うとともに、大きさや重さも感じることができ、ユニークな抹茶碗の形状に引き込まれる構図になっています。
この再撮影後の写真を Gallery に掲載したところ、すぐに購入され、売り切れとなりました。正解のないなかで最適な表現を探し続けた鈴木は、撮影を振り返り、次のように話します。
「Gallery の撮影は常に緊張感があるからこそ、売れたときの喜びは格別で、世に出したクリエイティブが認められたような達成感・安堵感がありますね。作家の意志をできる限り汲み取ろうとすることや、常に自分自身のこれまでの写真を超える表現を生み出さなければならないというプレッシャーがあります。また、ときにはアートディレクターと作品に対する意見の相違もあり、最適な形を探っていく難しさもあり悩むことは多いですが、それもまた撮影の大切なプロセスだと感じています」(鈴木)
MUSUBI Gallery 選集
九谷焼/石冨俊二郎、九谷焼/吉田美統、三川内焼/中里一郎、輪島塗/高出英次、京焼・清水焼/土渕善亜貴、九谷焼/仲田錦玉、九谷焼/福島礼子、九谷焼/高聡文 ── 各産地・各作家による作品の数々を MUSUBI Gallery に掲載しています。