シェフマサの名で親しまれている、和食レストラン「O-Ku(オク)」の濱屋雅友さんは、埼玉県出身。現在はジョージア州アトランタを拠点に、日本とアメリカという二つの文化を自由に行き来し、地元の食材を使いながら、東京の寿司店にも引けを取らない料理を提供しています。

「料理には物語が欠かせない。それがなければ、味の半分は失われる」

そう語る濱屋さんに、Musubi Lab のオリジナル商品である有田焼・田清窯の茶碗蒸し碗をお送りし、彼の物語が込められた料理の創作をお願いしました。

母の台所から、アリゾナへ

料理の原点は、母と一緒に作った家庭料理でした。「母は結婚した頃、料理が得意なほうではなかったんです。でも料理学校に通いはじめて、何でも作るようになった。そのうち、作るものが全部おいしくなっていました」。そんな台所のそばで育ちました。

進学先に選んだのはアメリカでした。キャンパスとその周辺の美しさに惹かれてアリゾナへ渡り、その時間があまりに心地よかったため、卒業後に日本へ戻ってからも、できるだけ早くアメリカに帰ろうと考えていたといいます。

帰国後は料理学校に通い、母がたどった道をさらに先へ進めました。東京の割烹料理店で修行を積んだあと、目指していたアメリカへ戻り、アリゾナ州フェニックスで料理人としてのキャリアを始めます。その後もオースティン、オーランド、サンフランシスコと、アメリカ南部を中心に各地で経験を重ねました。そしてジョージア州アトランタで O-Ku に加わり、自身の料理でメニューを率いることになります。

「あの頃の私は、伝統的な日本料理をそのまま紹介しようとはしていませんでした。アメリカ流の日本料理を届けるほうへ、自分を合わせていったんです」

淡い水色の器に盛られた鰹の料理
有田焼/貝山窯 青白磁網代彫 ひさご皿

和食は、ひとつのジャンルではない

濱屋さんの話は、料理の歴史へとよく及びます。伝統と独自性のちょうど良い均衡を探るとき、その知識が下敷きになっているのです。

たとえば、日本酒の話。ヨーロッパのワインの品評会に、日本の会社が日本酒を出品したときのこと。輸送の途中で酒が酸化してしまい、味の構造そのものが変わってしまいました。「そのまま出すしかなかった。でも審査員たちはそれを絶賛したんです」。それが古酒、熟成された日本酒でした。日本国内では価値を認められていなかったものが、外から評価されたことで見方が変わった例です。

「日本料理は、世界中から着想を得てきました。ポルトガル、中国、いろいろな国から」。カレーもそうです。インドに生まれ、イギリス経由で日本に伝わり、いまではスーパーの棚を占める国民食になりました。

だから濱屋さんは、和食をひとつのジャンルに閉じ込めて考えません。各地の味が混ざり合い、試行錯誤があり、時には幸運な偶然もあって成り立ってきたもの。日本の食材が手に入らない土地でも、おいしい和食は作れるという確信があります。「本気で探す気があれば、大抵は見つかるものです」

春になると木に咲く花を見つけ、それがレッドバッド(アメリカハナズオウ)だと知りました。かすかな甘みのある、さわやかな味。「ひとつ見つかると、それが別の何かと合う。そうやって味を組み立てていくんです」

蓋を開けた蒸碗に盛られた海老とイクラ、菜の花
有田焼/田清窯 薄南蛮ルリ釉金菊 花つまみ反蒸碗

物語が、味の半分をつくる

私たちが茶碗蒸し碗をお送りしたのは、プロの料理人がこの器で何を作るのかを見たかったからです。そしてそれ以上に、どんな物語を生み出すのかを知りたかったからでもあります。物語を大切にする姿勢は、濱屋さんも私たちも同じでした。

「物語は味の一部だと思っています。そして、それは説明されなければならない。でなければ、味の半分が失われてしまう」

O-Ku を擁するホスピタリティグループの創業者は、日本を訪れた際に「おもてなしの洗礼を受けた」のだと濱屋さんは言います。その体験は、飾らずに行き届いたもてなしの文化として、店に受け継がれています。

「MUSUBI KILN のものを見たとき、うわ、と思いました。すごく好きです」

ただ、茶碗蒸しという料理そのものは、欧米ではあまり馴染みがありません。出汁と卵で作る蒸し料理で、フランスのスフレが近いといえば近いのですが、あちらは甘く、デザートに寄っています。日本の茶碗蒸しは塩気のある一品で、コース料理やおまかせの一部として供されるものです。

蒸碗との出会い

「日本人にはしっくりくるサイズですが、アメリカでは少し小さく感じられるかもしれません」と濱屋さん。それでも、O-Ku のおまかせメニューに茶碗蒸しを加えることには手応えを感じています。「それが和と洋をつなぐ架け橋になる可能性がある」

蒸碗の美しさについても触れ、一度きりの用途に留まらず、厨房でも家庭でもさまざまに使える器だと評価してくださいました。

山吹釉の蒸碗に盛られた茶碗蒸し
有田焼/田清窯 山吹釉花鳥 玉型蒸碗

異なる文化と味が交わるなかで新しい価値を生み出しながら、本質を損なわないことに強くこだわる濱屋さんにとって、この器との出会いは、自身の原点を見つめ直すきっかけにもなりました。

「これまで自分がやってきたこと、友人や家族のために料理していた頃のことを、振り返らせてくれました」

日本のおもてなしの精神を思い出し、家族や友人とのつながりを大切に思う気持ちが甦ったといいます。

O-Ku アトランタの店内

濱屋さんの茶碗蒸し

茶碗蒸しの基本の材料は、卵と出汁です。私の黄金比は、卵1に対して液体3.25。アメリカで一般的なAAサイズの大きい卵は、殻を除いて約49ml。ですから卵1個に対して出汁は約171.5mlになります。

一つ目の蒸碗には、甘海老、オマール海老のミソ、ブロッコリーニ、スモークしたトラウトイクラを。燻香のある、均整のとれた一口になります。二つ目には、菊花の塩漬けを効かせたオイルと、筍のピクルスを。こちらは軽やかな味わいです。

店舗情報

O-Ku Atlanta(オク・アトランタ) 1085 Howell Mill Rd NW A3, Atlanta, GA 30318

写真: ©Vicki Artorntamarat / ©Heidi Harris