石川県能美市の九谷陶芸村に、北野陶寿堂の店があります。さまざまな窯元の作品がここに集まり、日々売られ、店の奥では小売店への出荷が支度されています。私たちが扱う九谷焼の多くも、ここを経由して海を渡っていきます。多くの窯元の作品を束ね、品質を確かめ、丁寧に梱包して送り出す。海外のお客様に届けるうえで、心強い存在です。

日本の最高峰の工芸品を紹介するコレクション「MUSUBI Gallery」を、九谷焼の産地から始めることになりました。その立ち上げにあたり、北野陶寿堂の北野広記さんに話を伺いました。以下は、北野さんの言葉です。

高額な作品の魅力を、言葉の違う相手に

Musubi Lab から Gallery のプロジェクトについて初めて聞いた時、これは Musubi Lab ならではの挑戦だと感じました。EC で、言語が異なる海外のお客様に高額な商品の魅力を伝えるのは難しいことです。そんな中、Musubi Lab は「食器」だけでなく、食器を活用した「暮らしのしつらえ」までを提案し、その商品が暮らしを豊かにすることの訴求を得意としています。だからこそ、このプロジェクトには特別な意義があると感じたのです。

日本の最高峰の工芸品を取り扱う、というのが Gallery のコンセプトの一つだと私は理解しています。そして九谷焼には、一点ものにならざるを得ない、奇跡のような商品がたくさんあります。Gallery では、ぜひそんな希少な商品の紹介にも挑戦していただき、その素晴らしさを世界中の皆さんに知っていただきたいと思っています。

緑地に金の花文が浮かぶ器の内側
釉裏金彩。文様に切った金箔を色釉の上に置き、さらに透明釉をかけて焼き上げる

売り場が変わった

20〜30年前であれば、高額な商品でも、陶器市でガラスケースに展示すれば数多く売れました。しかし現在、そういった商品は百貨店や画廊で開催される個展で販売されるのが主流です。また、日本国内では価格が高い商品の売れ行きが全体的に下がっていますが、そのような “作品” こそが、九谷焼のブランド向上には欠かせない存在だと私は考えています。

現代の九谷焼の多くが本来の技法を簡略化してつくられているのとは逆に、Gallery で紹介されている九谷焼の商品は、経験豊かな一流の職人たちにより、伝統的な技法で作られたものばかりです。Gallery を通じ、お客様に “本物” に触れていただくことで、歴史ある伝統工芸品である九谷焼の本質的な魅力を理解していただけたら、と心から願っています。

巨匠の技 ─ 釉裏金彩

北野さんが言う「一流の職人が伝統的な技法で作ったもの」のひとつが、錦山窯三代・吉田美統さんの釉裏金彩です。1932年、小松市の九谷焼の窯元に生まれ、19歳で家業を継ぎました。加藤土師萌の遺作展で釉裏金彩の作品に出会ったことをきっかけに、この技法の研究に取り組みます。

金箔で草花を描くには、まず箔を思い通りの形に切り取らなければなりません。薄すぎれば形にならず、厚すぎれば粋でなくなる。試行錯誤の末にたどり着いたのが、金箔を紙で挟み、手術用のはさみで切るという方法でした。

はさみで金箔を切り分ける手元
紙で挟んだ金箔を、はさみで文様のかたちに切り取る
器の表面に金箔を置いていく手元
下絵に沿って、切った金箔を置き付けていく

金箔を釉の下に置くのは、剥がれを防ぐためだけではありません。ガラスのような釉を透すことで、金の強い金属光沢がやわらぎ、落ち着いた輝きになります。緑を基調とした作品が知られていますが、長らく釉裏金彩には不向きとされてきた赤や紫にも取り組んでこられました。

2001年、重要無形文化財「釉裏金彩」の保持者に認定され、同年、紫綬褒章を受章しています。

紫地に金の牡丹と鳥が描かれた皿
紫地の釉裏金彩。金箔の厚みを変えることで遠近が生まれる

産地全体を見ている人

北野さんは、自身の商いのことだけでなく、九谷焼という産地全体をどう立て直すかを考えています。産地を一緒に回るとその理由がわかりました。

九谷焼は、土づくりから絵付けまでを一貫して手がける窯元もあれば、絵付けだけを担う作家もいます。生産の課題を尋ねていくと、ある窯元は土をつくる職人が足りず、別の窯元は絵付けの手が足りない。ひとつの問題を解けば済む、という世界ではないのです。

私たちが限られた日程で多くの窯を訪ねられたのは、北野さんが先に段取りをしてくださったからでした。作家さんたちとのやりとりを横で聞いていると、そこにある信頼が伝わってきます。

店内で器を手に取りながら打ち合わせをする様子
北野陶寿堂の店内で、新商品の相談をする

私たちの仕事は、作品をつくる窯元や作家だけでなく、そのあいだに立つ人たちにも支えられています。出張は新しい商品を見つけるためだけのものではなく、つくり手とその背景にある物語を知るための時間でもあります。

北野陶寿堂(きたのとうじゅどう)

石川県能美市の九谷陶芸村に実店舗を構える、九谷焼の専門商社。代表は北野広記さん。九谷焼の製造・卸・小売を手がけ、産地の作家・職人・窯元100名以上とやりとりを重ねながら商品の企画・開発を行っている。人間国宝や伝統工芸士の作品から、オリジナルの器までを扱う。