「一汁三菜を楽しめる、季節ごとの食器セットを提案しよう」。その思いから始まった「MUSUBI MONO」プロジェクト。一年のはじまりの季節である春の食器セットには、特に人気の高い桜のモチーフを取り入れることになりました。
そこで思い浮かんだのが、陶泉窯の「祇園桜」シリーズです。京都・祇園のしだれ桜が描かれており、生地の優しい色合いとも相まって、セットの目玉になるのではないかと考えました。セットのご飯茶碗と長角皿は、すべてオリジナルで制作していただいたものです。
陶泉窯は、生地づくりから絵付けまでを自社で手がける窯元です。以前から谷口さんと何かコラボレーションできないかという話が持ち上がっていたこともあり、今回それが実現しました。
ご飯茶碗を、海外の方に
このたびは MUSUBI MONO のオリジナル食器セットにご協力いただき、ありがとうございます。このコラボレーションのお話を聞いた時、率直にどう思われましたか。
日本人でも意識しない人が多い『一汁三菜』という言葉を、海外の方に提案する食器セットというのに興味がありましたね。これを見てると、完全な和食の『京食』やなあという感じがしますけどね。
ただ、海外の方がご飯茶碗というイメージがちょっと結びつきにくかったんで、そこらへんは『わっ』と思ったんですけども。Musubi Lab さんの販売状況はどうなのかということも聞きたいなと思っていました。
弊社のサイトでは、ご飯茶碗は継続的に売れる定番商品なんです。ただ、海外のお客様だと大きめのものを好まれる傾向にあるので、今回制作していただいたご飯茶碗も大きめのサイズで依頼をしました。
以前この大きさで作ったことはあるんですが、私のところでは特大飯碗という名前でした。
日本だとあまり見ない大きさのご飯茶碗かもしれませんね。
そういえば、私のお店に来られた外国の方、おそらくアメリカの方だと思うんですが、ご飯茶碗を見ていたのでどういう風に使いますかと聞いたことがあるんです。そしたら、シリアルに使うって言ってましたね。
祇園桜のモチーフ
長角皿は、既存商品の幅をやや短くしたサイズで制作を依頼しましたが、祇園桜モチーフの長角皿は初めてお作りになったとお聞きしています。絵付けの配置などは、どのように決めていったのでしょうか。
この祇園桜の場合には、モチーフ自体はずっと以前からのものなので、大体この辺りにこの大きさで絵付けをするということを私が指示して、あとは作り手の感覚です。特に難しく考えているわけでもなく、自分が良いと思うようにデザインしてるというか、お皿の中にどうモチーフをはめるかということだけですね。
絵付けを担当されているのは、お一人の方でしょうか。
長角皿もご飯茶碗も一緒の絵付け師です。あくまでセットで考えられてますので、あまり違ったところが出てくると良くない。同じ人間が、同じものをします。
祇園桜においてのこだわりはどんな点でしょうか。
一番の特色は触っていただくとわかるんですが、盛り絵の具で立体感があるんですね。絵の具を重ねずに一筆で描くので、しだれ桜の良さが出てくる。京都ではしだれ桜がいたる所にありますけど、枝が長く下に垂れ下がって花が下についてくるというものは心を打つものがありますよね。上で咲いている花はいっぱいありますけど。
店に来るお客様の9割以上が、海外の方
最近は京都に来られる海外旅行客が多いと話題ですが、陶泉窯さんも海外のお客様がすごく増えているのではないでしょうか。
ええ、私の店で販売している相手は、90パーセント以上は外国の方なんです。
そんなに多いんですね。
コロナの前やコロナの時代はもう全然お客さんも来ずで、ほんまに死の街でしたけどね、去年の年明けぐらいから非常に外国人の方が増えてきました。日本の人が買わへんっちゅうことは寂しいですけど。
その様子を見ていると、海外の方がご飯茶碗を買われるっていうのは少なかったので、この案をいただいた時や作っている時に、反響がどうなのかなということは心配やったんです。でも Musubi Lab さんではご飯茶碗の販売も順調だということで、認識を新たにしました。
陶泉窯さんの人気商品は何でしょうか。
こればっかりは、それぞれ個人の好みの問題があるので、これがよく売れていますというのは言えない。ちょっと前まではお酒や煎茶関連のものを見ている方が多かったですけど、今はバラエティーに富んでいて自分の好きなものをそれぞれが買っていきますね。この前はラーメン好きな人がどんぶり鉢を探していて、買っていきました。
京都感が伝わるということ
陶泉窯さんの陶磁器を買われる海外の方は、和食に対する興味はもちろん、京都に対する興味があるのではと感じます。祇園桜や京野菜など、京都ならではのモチーフを題材にしていますが、それらを通して谷口さんが伝えたいこととはなんでしょうか。
やはり一番大切にしていることは、日本の方でも外国の方でも、京都に来て、あるいは何かで京都を知った方が、その空気感をうつわによって味わえるということ。京都のものづくりちゅうものは自分の作っているものに自分の感性をかけて作るんですけども、その感性はやっぱり他の人に京都感というものが伝わるものだと思うんですよね。
ただ、京都のものの特色はどんなんですかと言われると困るんです。お客さんがそう感じてくれることが、やっていることに対しての正解だと思います。
破壊して、再生する
インタビューを通じて、谷口さんがこのコラボレーションを引き受けてくださった背景には、大きく移り変わる時代のなかにおいても、新しいものを創り出していく前向きな気持ちがあることを強く感じました。
「今までやってきたことっていうのは、どうしても自分の考えで、自分の方向でやってきたわけですよね。こんだけ長いことやって、やっぱり自分の考え方を破壊して、再生しないといかんと思ってるところがあるんです」
150年以上続く窯元の四代目が、いまだに自分の考え方を壊そうとしている。その言葉に、古都の窯元が発信する誇りを感じずにはいられませんでした。
谷口 哲也(たにぐち てつや)
株式会社陶泉窯 四代目 代表取締役社長
京都・五条坂に生まれる。故・浅見薫氏より長年にわたり釉薬の指導を受ける。裏千家流茶道、花傳御幸流華道を修行し、その伝統的な造形を生かした陶芸活動を展開。数々のオリジナル作品を発表している。
陶泉窯
明治初年、京都・五条坂で清水焼の問屋「陶泉」として創業。1944年に生産工房を持ち、窯銘「陶泉」として清水焼の創作・生産を始めた。生地づくりから絵付けまでを自社で手がけ、急須や茶碗、鉢、皿など幅広い清水焼を制作している。